定年退官自衛官、車屋さんに就職 (142弾目)

134弾目で書いた【閲覧注意】大雨の日限定「市営住宅の階段」の後日談

 皆さん夏っすね。くっそ暑いっすね。うち、エアコンないし。夏で暑い日はあれっすよね。怪談っすね。

 で、134弾目の話を友人に1人だけ話したって書いたのですが、この友人が後日とんでもないことになってしまった件につて続編です。まあ、それほど怖い話ではないのですが閲覧は自己責任で。てか長いので読むのも大変っすよ。

 高層市営住宅で気味の悪い人を見たことを唯一話したのは友人のA君。彼は小柄だけどすごく気が強く、「それはきっと幽霊だ。絶対に近くで見てみたい。」と目を輝かせていた。ぢゃあ今日連れて行ってやるよと言うと「いや、どうせならできるだけ同じ条件の日に一緒に行く。」と言う。同じ条件「雨」かね。それくらいかね。

 数日後学校でA君が「今日最高だろ。連れて行ってくれよ。」とウキウキだ。確かにかなり雨が強い。はっきり言って雨の日の新聞配達は苦痛。営業所まで新聞を取りに行って経路の途中から合流することで話がついた。

 数件配り終わって指定した場所に着くと、ママチャリでくるくる回っているA君を見つけた。ほんとに行く気なんだ。出るかどうかも分かんないのに。まだ夕方というには早い時間だが雨のせいでかなり暗く感じる。「よし!行こう!!手伝うから!!」とA君。聞けばバイトなどはやったことがないという。本来はそれが普通の家庭だ。食うもの着るものには困らない一般的な家庭のお子様だ。このとき少し「怖い思いすればいいのに」とか思った。

 いつも通り最上階から配達していく。階段を降りながら効率的なルートを歩く。A君は落ち着きなく蛇行しながら表札の名前を全部読んでいる。すこしうざい。「あと3階か!そろそろだ!」と余裕の笑顔がさらにうざい。

 本当は通りたくなかったのだけど「ここ曲がったら下へ降りる階段があるから。そこだよ。」と先に行けオーラを出しながら立ち止まるとA君は小声で「こええな。いるかな。」と言いながら自分を追い越して階段へ向かった。角からそーっと顔を出して階段をのぞき込むA君の後ろで、お約束としてはここで叫びながら背中蹴って逃げるべきと思うがやめておいた。

 「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 と、A君が激しく悲鳴を上げたのでつられて自分も「うあああああ!」と叫んだ。続けて「いた!?」と聞くとA君が放心状態で腰を抜かした感じになっている。「壁、壁、壁、壁」と今にも尻もちをつきそうなヘンテコな姿勢で階段の下を指さす。

 うわ。見たくない。幽霊はいないけどなんかあるんだ。と思いながら自分も階段の下を見た。

 もうね、絵にも描けないやばいやつ。ガチで人の顔。壁に染みついてんの。 灰色のコンクリート壁にまるで水で書いたみたいに。ほら、コンクリートって濡れると濃いグレーになるでしょ。あれ。表情はわからないけど片目、鼻、口、髪の毛までボヤっとだけどちゃんと顔。全身がゾワワワワワってなる。しばらく目が離せなかったけど「向こうの階段から降りるぞ!」と言いながらA君を引っ張って走る。引っ張られて走るA君は「顔、顔、顔…」と震える声で何度もつぶやいていた。

 そんな中でもちゃんと新聞を全部配ってから外にでたおれ。A君は半笑いみたいな表情で「すげえ。顔だ。すげえ。」を繰り返していた。「家帰れる?」と聞くとダイジョブ。近いから。と半笑いで答えたので大丈夫だと思った。

 翌日からA君とぱったり会わなくなった。クラスが違うのでもともと学校で会うことも少なかったのだけど、ほんとに会わなくなった。自分は平常運転であの階段を回避するルートを使って新聞を配っていた。なのでA君のこともすっかり忘れており、あの「階段の顔」も誰かに話したら呪われる理論で忘れるようにしてた。

 中学3になって新聞社を変えた。部数は多くなるが給料がいい。そんなときA君のことを思い出した。偶然にも新しい新聞社を紹介してくれたT君がA君のことを知っていて色々教えてくれた。

 A君は学校には通っていたが休みがちになり、登校しても人と話すことはなくなったそうだ。仲の良い友人が心配して話しかけても「眠れない」、「夜が怖い」など、まるでテンプレ怪談の最後に行方不明になる人みたくなっていたそうだ。

 さすがに責任感じたおれ。しかし中学3年の自分は「行きたいといったから連れて行ったんぢゃん」で終わらせた。もちろん行く前に自己責任だとしっかり伝えてあったし。でも高校に入ってから、A君が高校に行かず、何をしているかわからないと聞いたとき、「やっぱあれ見たせいかな」と思ったが、普通にヒキニートになったと思うことにした。

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